基調講演 講師プロフィール 田中 伸明  (たなか のぶあき) 香川県出身 1967年5月5日生まれ 2007年9月 新司法試験合格 2008年12月弁護士登録(愛知県弁護士会) 名城法律事務所にて弁護士業務開始 2012年1月 名城法律事務所パートナー弁護士として、豊田事務所に赴任 (弁護士会活動) 日本弁護士連合会 人権擁護委員会障害者差別禁止法制に関する特別部会 委員 日本弁護士連合会 民事裁判手続等のIT化に関する検討ワーキンググループ 委員 愛知県弁護士会  高齢者・障害者委員会 副委員長 (公的活動) 内閣府 障害者政策委員会 委員 厚生労働省 労働政策審議会 障害者雇用分科会 委員 JDF 政策委員会 委員長 名古屋市障害者差別相談センター連絡調整会議定例委員 名古屋市視覚障害者協会会長 日本弁護士連合会第65回人権擁護大会プレシンポジウム 裁判手続きにアクセシビリティを −障害者に開かれた裁判手続きを実現するために−  弁護士 田中 伸明(愛知県弁護士会) 第1 差別解消の目指す者  〜こんな場合をどう思いますか?〜  あなたは視覚障害者だから、入学試験を受けることはできません。  あなたは聴覚障害者だから、イベントへの参加はお断りします。  あなたは車椅子を使用しているので、電車に乗車するには同伴者が必要です。 ・「差別」は障害者だけの問題ではありません。人種、宗教、性別、年齢等、様々な場面で起こりえます。身近な問題として考えてもらえればと思います。 ・差別解消の考え方を進めることは、多様性を許容する社会作りを進めることを意味します。それぞれの人が置かれた立場を尊重する社会作りを目指しましょう。 【日本国憲法第14条1項】  すべて国民は、法のもとに平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 第2 国際的な動向 〜「障害者の権利に関する条約」の採択と批准〜 1 障害者権利条約の国連における採択  2006年12月13日、第61回国連総会で「障害者の権利に関する条約」が採択されました(2008年5月3日発効)。21世紀初の主要人権条約と評価されています。  ・「保護の客体」ではなく、「人権の主体」としての存在であることを確認しています。  【障害者の権利に関する条約 前文(c)項】 (c)全ての人権及び基本的自由が普遍的であり、不可分のものであり、相互に依存し、かつ、相互に関連を有すること並びに障害者が全ての人権及び基本的自由を差別なしに完全に享有することを保障することが必要であることを再確認し(以下略)  ・「医学モデル」ではなく、「社会モデル」の考え方が導入されています。   障害は、社会的障壁との相互作用によって生じるものと捉えられています。  【障害者の権利に関する条約 前文(e)項】 (e)障害が発展する概念であることを認め、また、障害が、機能障害を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用であって、これらの者が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものによって生ずることを認め(以下略) 2 日本の障害者権利条約の批准  2014年1月20日批准、同年2月19日発効  ・締約国となった日本は、2016年6月に、国連の障害者権利委員会に対して、第1回政府報告を提出しています。この報告書を受けて、2022年8月22日、23日の両日にわたり、障害者権利委員会による日本審査が実施されました。  ・この日本審査の後、2022年9月9日に、障害者権利委員会から日本に対する総括所見が公表されました。 3 障害者権利条約批准のための法整備・制度改革の動き @ 障害者基本法の改正(2011年8月) A 障害者総合支援法の制定(2012年6月) B 障害者差別解消法の制定(2013年6月)  ・これらの国内法整備がひとだんらくしたことを受けて、2014年1月20日、日本は障害者権利条約を批准するに至りました。 【障害を理由とする差別の解消の推進 - 内閣府】 https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html 国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が制定され、平成28年4月1日から施行されました。 令和3年5月、同法は改正されました(令和3年法律第56号)。改正法は、公布の日(令和3年6月4日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。 4 国内法整備におけるポイント 「障害者」の定義規定の改正       〜医学モデルから社会モデルへ (1) 旧障害者基本法上の定義規定 第二条  この法律において「障害者」とは、身体障害、知的障害又は精神障害(以下「障害」と総称する。)があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。 → この定義規定によると、障害が「あるため」に、日常生活又は社会生活に制限を受けるというニュアンスになります。すなわち、制限を受ける原因は、その人が有する障害に求められることになります。このような考え方は、「医学モデル」と言われています。 (2) 改正障害者基本法上の定義規定 第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 1 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にある者をいう。 2 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活または社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 → この定義規定によると、「障害及び社会的障壁」によって、日常生活又は社会生活に制限を受けるというニュアンスになります。すなわち、制限を受ける原因は、障害と社会的障壁の双方に求められることになります。このような考え方は、「社会モデル」と言われています。 第3 障害者の「裁判を受ける権利」と裁判手続きのIT化 1 裁判手続きのIT化 「3つのe」が進められている。 e法廷(ウェブ会議) e提出(オンライン提出) e事件管理 2 障害者が裁判を受ける場合に存在する障壁 日本弁護士連合会が実施した、「裁判手続きのIT化に関する障がい当事者団体アンケート結果」から (日本弁護士連合会ホームページ)  https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/human_rights/bunya.html 「7 社会保障に関わる人権問題」ないに、下記のPDF,テキストデータが掲載されています。  (PDF) https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/human/human_rights/bunya_itka.pdf (テキスト) https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/human/human_rights/bunya_itka.docx (1) 用いられる文書形式について 【NPO法人日本障害者協議会(JD)】  障害のある人の場合には,日常的にPDFを利用する機会のない人も多く,「PDF」そのものを理解するためのわかりやすい説明が必要である.また、視覚障害のある人にとって,PDFは不適切なものがあり,音声認識のできるファイルが必要である.テキストファイルの併用が必要だ。また点字などの利用も当然認められなくてはならない。 【社会福祉法人全国盲ろうしゃ協会】 パソコンを使える盲ろうしゃの中には、自力でPDF化したり、PDF形式のデータにアクセスすることができないため、メールで訴状をワード形式かテキスト形式のファイルを添付するか、メール本文への貼りつけの方法で送り、担当者の方でPDF化をしてほしい。そのPDFも音声読み上げや点字ディスプレイで読める形式にしてもらいたい。パソコンを使えない盲ろうしゃには、通訳・介助員によるサポートを受けながら、裁判所等に行き、盲ろうしゃが自身で訴えるか、手話等の本人が発しやすい方法で訴えたないようを通訳・介助員が通訳した情報を職員か弁護士に直接伝え、訴状の作成やPDF化をしてほしい。 【社会福祉法人日本視覚障害者団体連合】 @ 具体的にはwordとtxtファイルを必ず用意してほしい。PDFファイルは音声式パソコンで確実な読み上げができないことが多いため、これらのファイルを希望します。 A 訴状等の資料は、そもそも文字量が多いため、HTMLやMarkdown等の方法で見出し設定を付けてほしい。この設定を行うことで、視覚障害者は目的の場所を探しやすくなります。 (2) ID・パスワードによって本人確認が行われる場合について 【全国手をつなぐ育成会連合会】  数字・英字を混ぜたパスワードや、大文字・小文字を両方使用するパスワードなど、パスワードの設定に制限がある場合、パスワードの設定自体が難しい人がいる。 【社会福祉法人日本視覚障害者団体連合】  @ WEBじょうでIDとパスワードを入力する画面を、音声式パソコンでは確認できないものがあった。文字データがテキストではなく画像データになっていたこと、入力画面が複雑になっていること等が原因。  A ここ最近、WEBからの申込では、画像認証を求められることがあり、画像を確認できない視覚障害者は困っている。この場合、画像認証に代わる代替手段が必要で、メールによる認証コードの送信等が必要となっている (3) 情報保障について 【全日本ろうあ連盟】 ・文字による通訳や字幕等他の情報保障手段について、全文がほしいかたや、要約筆記が必要なかたそれぞれいる。前者は、すべて情報を知りたいというかた。後者は、情報が多すぎてもわかりにくくなるので、要約された情報のほうがわかりやすいというかた。 ・手話通訳だけか文字通訳だけかではなく、手話通訳と一緒に、文字通訳等も必要なかたもいる。手話だけではなく、地名等は理解しにくいので、漢字で見たほうが理解が早いことがある。 ・重要なのは、聴覚障害者の中にも必要とする配慮はまちまちなので,それぞれのニーズにこたえた配慮を求めたい。 【東京都手話通訳等派遣センター】  映像などのデータを共有する際は手話通訳の動画が小さくならないようにする必要がある。また、資料がある場合は事前に通訳者への情報提供が必要。 (4) ウェブ会議について 【全日本ろうあ連盟】  ・映像が乱れたり固まったりすると、その間の手話言語による話の内容が全く理解不能になる。ネット環境はもちろんだが、映像が乱れてしまった等のために、内容が理解できなかった場合の対応を考えてほしい。当事者や手話通訳者が即座にその旨を告げることができるよう、事前に裁判官から「乱れてしまった場合は、すぐに言ってください」等告げることを求めたい。 ・資料等を確認しようとして、少し目を離すと、今どんな話をしているのかわからなくなることがある。そのため、文字は、すぐ消えるのではなく、少しの間は見れるような状態にしてほしい。 ・長期間パソコン画面やモニターを見つめるのは、目に負担がかかる。例えば、少なくとも1時間ごとに休憩を入れる等の配慮が欲しい。 ・遠隔だと、質問のタイミングをのがしがち。質問にすぐ気づく工夫かっこ例:質問カードを作り、挙げる等)が求められる。 ・ただし、手話は地域によって異なる手話があるため、どのような通訳を望むかについて、まずは当事者の要望を聴取し、その要望が尊重されるべきである。 【社会福祉法人日本視覚障害者団体連合】 @ ここ最近、オンライン会議等では画面共有という形で資料が提示されるが、視覚障害者には確認ができないものが多い。そのため、提示された資料を詳細に説明してほしい。 A @の説明において、視覚障害者がその説明を聞いて理解できることが必要です。そのため、「ここに書いてある」といった指示語は使わない、資料のページ番号や小見出しを読み上げる等の配慮もおこなってほしい。 B 視覚障害者は資料の確認、機器の操作に時間を要することが多いため、確認時間を増やす等の配慮をおこなってほしい。 (5) 裁判所への要望について 【全国「精神びょう」しゃ集団】  休憩の申出があったときには認める。 【全国手をつなぐ育成会連合会】  ウェブ会議に支援者が立ち会う必要があるところ、支援者と相談しながら答えるか、支援者が本人に代わり答える必要がある場合がある。有資格者ではない支援者の立会及び支援が幅広く認められるべき。 【NPO法人日本障害者協議会(JD)】 わかりやすい言葉や文による説明資料の用意かっこ難解な言葉にルビを振ってもそれだけでは伝わりません).相談に乗ってくれる人がいること,支援者の同行を認めること .言語障害がある場合にはその人の聞き取りに慣れた通訳者の同席を認めること 【公益社団法人全国精神保健福祉会連合会】 人によってですが、画面操作が難しい、理解が難しい専門用語が多いと混乱する、話すスピードが速すぎると理解が追い付かなくなる、長時間になると集中しきれなくなる、などが考えられる。 【日本発達障害福祉ネットワーク】 説明を複雑な文章(仮定文など)は避け、文章を短くシンプルなものにする。 【社会福祉法人全国盲ろうしゃ協会】 盲ろうしゃは、基本的に通訳・介助員が同席し、その盲ろうしゃが理解できる通訳手段で、通訳したり、状況説明を受けることが必要になる。手話通訳や要約筆記と比べると、かなりゆっくりとしたペースで進行する必要がある。また、盲ろうしゃが会議の内容を理解できているかどうかの確認をしてから、次へ進めてほしい。 第4 障害者の「裁判を受ける権利」を実質的に保障するために 1 日本国憲法32条 裁判を受ける権利 【日本国憲法 第32条】  なんびとも、裁判所において裁判を受ける権利をうばわれない。 2 障害者権利条約13条 司法手続の利用の機会 【障害者権利条約 第十三条 司法手続の利用の機会】 1 締約国は、障害者が全ての法的手続かっこ捜査段階その他予備的な段階を含む。)において直接及び間接の参加者かっこ証人を含む。)として効果的な役割を果たすことを容易にするため、手続上の配慮及び年齢に適した配慮が提供されること等により、障害者が他の者との平等を基礎として司法手続を利用する効果的な機会を有することを確保する。 2 締約国は、障害者が司法手続を利用する効果的な機会を有することを確保することに役立てるため、司法に係る分野に携わる者かっこ警察官及び刑務官を含む。)に対する適当な研修を促進する。 3 「手続上の配慮」の意味〜合理的配慮との相違点〜 (1) 「合理的配慮」の意義  【障害者権利条約 第2条】  「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、とくていの場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。 (2) 「手続上の配慮」の意義 【障害者の司法へのアクセスに関する国際原則とガイドライン】 2020年8月採択 (International Principles and Guidelines on Access to Justice for Persons with Disabilities)  https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Disability/SR_Disability/GoodPractices/Access-to-Justice-EN.pdf ・用語集(GLOSSARY OF TERMS) 手続上の配慮: 特定の場合において必要とされる場合には、他の者との平等な立場での障害者の参加を確保するため、司法へのアクセスの文脈において必要かつ適当なすべての修正及び調整を行うこと。 合理的な配慮とは異なり、手続き上の配慮は、「不均衡または不当な負担」という概念によって制限されるものではない。 (原文) Procedural accommodation: all necessary and appropriate modifications and adjustments in the context of access to justice, where needed in a particular case, to ensure the participation of persons with disabilities on an equal basis with others. Unlike reasonable accommodations, procedural accommodations are not limited by the concept of "disproportionate or undue burden". 4 日本の法制度のげんじょう 【第1回日本政府報告(障害者権利条約13条関連箇所抜粋)】 86.裁判所では、各裁判手続等において、障害を有する当事者や証人等が、適切に意思疎通を図り、円滑に権利行使ができるようにするため、裁判官の判断で、障害のないようや程度に応じて、手話通訳にんをふす、要約筆記等による手続を行う、あるいは、補聴器を貸与する、裁判所が作成、交付する書面をてんやくするなどの配慮のほか、裁判官が当事者に対する手続の説明や質問をする際にも、そのないようや方法に配慮するなどの措置が講じられていると承知している。 88.当事者は、難聴、言語障害、知能が十分でないこと等により、十分な裁判上の行為ができない場合、裁判所の許可をえて、補佐人と共に出頭することができる(民事訴訟法第60 条、非訟事件手続法第25 条)。 90.民事裁判及び非訟事件の手続について、口頭弁論に関与する者(当事者となる場合のほか、証人等となる場合を含む。)が耳が聞こえない者又は話をすることができない者であるときは、通訳にんを立ち会わせ、又は、文字で問い若しくは陳述をすることができるとしている(民じ訴訟法第154 条第1 項、非訟事件手続法第48 条)。 5 国連障害者権利委員会による総括所見の内容  【司法手続の利用の機会(第13条)】 29.委員会は、以下を懸念している。 (a) 意思決定を代行する制度の下に、訴訟能力の欠如を事由として施設入居障害者、知的障害者、精神障害者の、司法を利用する機会を制限する民事訴訟法及び刑事訴訟法の規定。 (b) 障害者の効果的な参加を確保するための民事・刑事及び行政手続における、手続上の配慮及び年齢に適した配慮の欠如。障害者にとって利用しやすい情報及び通信の欠如。 (c) 裁判所、司法及び行政施設が物理的に利用しにくいこと。 30.委員会は、障害者の権利に関する特別報告者によって作成された、障害者の司法を利用する機会に関する国際原則及びガイドライン(2020年)並びに持続可能な開発目標のターゲット16.3を想起し、締約国に以下を勧告する。 (a) 障害者が司法手続に参加する権利を制限する法的規定の廃止。他の者との平等を基礎として、あらゆる役割において、司法手続に参加するための完全な能力を認識すること。 (b) 障害者の全ての司法手続において、本人の機能障害にかかわらず、手続上の配慮及び年齢に適した配慮を保障すること。これには、配慮に要した訴訟費用の負担、情報通信機器、字幕、自閉症の人の参考人、点字、「イージーリード」及び手話を含む、手続に関する公式情報及び通信を利用する機会を含む。 (c) 特に、ユニバーサルデザインにより、裁判所、司法及び行政施設への物理的な利用のよういさ(アクセシビリティ)を確保し、障害者が、他の者との平等を基礎として、司法手続をひとしく利用する機会を保障すること。 6 障害者関係の法制度 (1) 障害者基本法 第29条(司法手続における配慮等)  国又は地方公共団体は、障害者が、刑事事件若しくは少年の保護事件に関する手続その他これに準ずる手続の対象となった場合又は裁判所における民事事件、家事事件若しくは行政事件に関する手続の当事者その他の関係にんとなった場合において、障害者がその権利を円滑に行使できるようにするため、個々の障害者の特せいに応じた意思疎通の手段を確保するよう配慮するとともに、関係職員に対する研修その他必要な施策を講じなければならない。 (2) 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(令和四年法律第五十号) 第3条(基本理念)  障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。 一 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る手段について、可能な限り、その障害の種類及び程度に応じた手段を選択することができるようにすること。 二 全ての障害者が、その日常生活又は社会生活を営んでいる地域にかかわらず等しくその必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにすること。 三 障害者が取得する情報について、可能な限り、障害者でない者が取得する情報と同いつの内容の情報を障害者でない者と同いつの時点において取得することができるようにすること。 四 デジタル社会かっこデジタル社会形成基本法(令和三年法律第三十五号)第二条に規定するデジタル社会をいう。)において、全ての障害者が、高度情報通信ネットワークの利用及び情報通信技術の活用を通じ、その必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにすること。 第10条(法制上の措置等)  政府は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。 第13条(障害者が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な分野に係る施策) 1「国」及び地方公共団体は、医療、介護、保健、福祉、教育、労働、交通、電気通信、放送、文化芸術、スポーツ、レクリエーション、司法手続その他の障害者が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な分野において、「障害者」がその必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにするため、障害者とその他の者の意思疎通の支援を行う者(第十五条において「意思疎通支援者」という。)の確保、養成及び資質の向上その他の必要な施策を講ずるものとする。 2「国」及び地方公共団体は、医療、介護、保健若しくは福祉に係るサービスを提供する者、学校の設置者、事業主、交通施設(移動施設を含む。)を設置する事業者、電気通信若しくは放送の役務を提供する事業者又は文化芸術施設、スポーツ施設若しくはレクリエーション施設の管理若しくは運営を行う者が行う障害者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通のための取組を支援するために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。 第5 IT化に向けて求められる「手続上の配慮」  障害者に対しても、「他の者との平等を基礎として」、障壁なく裁判を受ける権利が保障される必要があります。  障害者の司法アクセスの保障に関しては、障害者権利条約をはじめ、昨今、様々な文書が公表されていますので、これらの文書を検討・把握した上で、国際水準が求めるレベルを達成することが必要となります。  裁判手続のIT化は、これまで解決できなかった障壁を解消する大きなチャンスでもあります。障害者からの意見(ヒアリング結果)を十分に検討した上で、必要な制度設計を行うとともに、運用改善がはかられることが重要です。  このような取り組みが、全ての人の裁判を受ける権利を実質的に保障することにもつながるでしょう。  【一般的意見第6号(General Comment No.6)  障害者権利条約第5条(平等及び無差別)】 G.司法手続の利用の機会に関する第13条 51.第5条に概説されている平等及び無差別の権利並びに義務は, 特に手続上の配慮及び年齢に適した配慮の提供を要求している第13条に関して, 特別な検討を提起する。手続上の配慮は均衡を失していることを理由に制限されないという点で, これらの配慮は合理的配慮と区別することができる。手続上の配慮の実例としては, 裁判にかけられた,障がいのある人に多様な意思疎通方法を承認することがあげられる。年齢に適した配慮としては, 年齢に適した, かつ, 平易な言葉を使い, 不服申立のために利用可能な仕組みと司法手続の利用の機会に関する情報を普及することがあげられる。 52.司法手続を利用する効果的な機会を確保するためには, プロセスへの参加を認め, プロセスの透明性を図らなければならない。参加を可能にする行動には以下が含まれる。 (a)理解可能かつアクセシブルな方法による情報配信 (b)意思疎通の多様な形式の承認及び配慮 (c)プロセスの全段階における物理的なアクセシビリティ (d)法律扶助が適用可能な場合, 及び法律扶助受給資格に関する法定検査の対象となった場合の財政的援助                                 以上